東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)43号 判決 1972年2月08日
原告
ロヂ・ウント・ウイーネルベルゲル
・アクチエンゲゼルシャフト
右代表者
ウイリー・フリッカー
ヘルムート・シエルホルン
右代理人該弁護士
ローランド・ゾンデルホツフ
右復代理人弁護士
牧野良三
右代理人弁理士
田代久平
右復代理人弁理士
田代蒸治
被告
安蔵透
主文
原告の請求は、棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
この判決に対する上訴のための附加期間を九十日とする。
事実《省略》
理由
(特許庁における手続の経緯等)
一本件に関する特許庁における手続の経緯、本件特許発明の要旨および本件審決理由の要点に関する原告主張の事実は、民事訴訟法第百四十条第三項本文、第一項の規定により被告において自白したものとみなされる。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二本件審決を取り消すべき事由の有無について審究するに、この点に関する原告の主張は、理由がないものといわざるをえない。すなわち
(一) 本件特許発明は、中空リンクおよびこれを互に関節的に、かつ、伸延可能に結合し、発条作用に抗して旋回しうべき結合リンクより成れる伸延可能なるリンクバンド、殊に腕時計用バンドであり、
(1) 中空リンクが任意の断面形の円筒状鞘10、11のバンド縦方向において互に転位せられた二組により形成せられていること、
(2) 結合リンクが、バンド縦縁中に設けられたU字形結合彎曲片14により形成せられていること、
(3) 該結合彎曲片は、各二個ずつその一方の脚15をもつて一方の組の鞘10の開放端中に挿入せられ、その他方の脚16をもつて他方の組の転位して位置する隣接せる鞘11中に挿入せられ、かつ、各鞘中には結合彎曲片を鞘中に確保し、かつ、バンドの伸延あるいは彎曲に際し発条的に反対作用する彎曲板発条が設けられていること、の要件から成るものであることが明らかであるところ、本件特許発明は、リンクバンドに極めて大きな伸張性および可撓性を有せしめることを発明の主たる目的とし、鞘、結合彎曲片および彎曲板発条の三部材を彎曲板発条の張力を利用して弾力的に関節連結することによりこの目的を達したものであることが認めらる。
(二) 他方、(イ)号発明の要旨が本件審決認定のとおりであるとする原告の主張事実は被告において自白したものとみなされるべく(民事訴訟法第百四十条第三項本文、第一項)、右事実および(イ)号発明の特許公報によれば、(イ)号発明の要旨は、審決の認定のとおり「二個の側鈑の上方折曲部の内側に山形状の上部撥条鈑を当て該側鈑の長孔に押え鈑を挿通して該側鈑の上方部と上部撥条鈑を押え、該押え鈑に嵌合した箱状の上ケースの切欠に側鈑の枠部が出入するようにし、かつ、上ケースの数個の突子により押え鈑に上ケースを取り付け、該上ケースを多数並列して多数の連結片の両側の折曲部を各上ケースの各側鈑の長孔に挿通引掛けて各上ケースを連結し、側鈑の下部に山形状の下部撥条鈑を当て、一方に開放部を設けた二個の下ケースをそれぞれ各連結片の前後に嵌合してその両側緑の折曲部をこれに掛け、かつ、下部撥条鈑を押えたことを特徴とする伸張性時計帯」であるものと認められ、とくに「本発明は、上、下の縁に折曲部1、1'、2、2'を有する二個の側鈑3、3'の該上方折曲部1、1'の内側部に山形状の上部撥条鈑4を当て、該側鈑3、3'の長孔5、5'に押え鈑6を挿通して該側鈑3、3'の上方部と上部撥条鈑4を押え、該押え鈑6の上部に嵌合した箱状の上ケース7の前、後両側緑部の切欠8、8'、9、9'に側鈑33'の前、後両側縁部の枠部10、10'、11、11'が出入する様にし、かつ、上ケース7の両側縁部の数個の突子12、12'、13、13'により押え鈑6に上りケース7を取付けたものを多数並列して多数の連結片15の両側の折曲部14、14'を各隣合せた側鈑33'の長孔5、5'に挿通引掛けて連結し、側鈑3、3'の下部に山形状の下部撥条鈑10を当て、一方に開放部17、17'を設けた二個の下ケース18、18'を夫々の各連結片15の前後に嵌合してその両側縁の折曲部19、19'、20、20'をこれに掛けかつ下部撥条鈑16を押えたことを特徴とする伸張性時計帯に係」る旨の記載および「時計帯を腕に掛ける為時計帯を伸張すれば……各上ケース7および各下ケース18、18'が夫々離れるもので此の場合は各側鈑3、3'が若干左右に倒れ箱状の上ケース7の前、後両側縁部の切欠8、8'、9、9'に側鈑3、3'の前、後両側縁部の枠部10、10'、11、11'が入るものである。而して上部、下部撥条鈑4、16により各側鈑3、3'は常に垂直にされ様としているので時計帯を腕に通した後は相隣れる各上ケース同志7、7と相隣れる各下ケース同志18、18'は互いに近接し、腕にピッタリと緊締されるものであり、従つて本発明に依れば時計帯の伸張、収縮が円滑に行ない得るものである」旨の記載を総合して考えると、(イ)号発明は、きわめて大なる伸長度をえるために、上または下ケース、側鈑押え鈑および上部または下部撥条鈑の各部材を、各撥条鈑の弾力を利用して、各側鈑が常に弾性的に直立して常に縮少状態にあらしめることにより、その目的を達したものであることが認められる。
(三) そして、叙上の事実によると、右両者の構成において、本件特許発明のU字形結合彎曲片14に相当するものは、本件審決も認定するように、(イ)号発明においては側鈑3であると解するのが相当である。
(四) しかして、本件特許発明のU字形結合彎曲片14と(イ)号発明の側鈑3とは、以下詳述するように、その構造およびこれらと中空リンク((イ)号発明では上ケースと下ケース)との係合状態において発明としての構成上相違するものと認めるを相当とする。すなわち、まず、結合片ないし連結片の形状、それによる中空リンクの連結方法およびそれと板発条(撥条鈑)との関連構成の点についてみるに、本件特許発明においては、
(1) 結合リンクは、バンド縦縁中に設けられたU字形結合彎曲片により形成され、
(2) 組合彎曲片は各二個ずつ、その一方の脚をもつて一方の組の鞘の開放端中に挿入され、その他方の脚をもつて他方の組の転位して位置する隣接した鞘中に挿入され、
(3) 各鞘中には、結合彎曲片を中に確保し、かつ、バンドの伸延あるいは彎曲に際し発条的に反対作用する彎曲板発条が設けられている
ことは、前段認定の事実に徴し明らかである。
これに対し、前掲(イ)号発明の要旨および前顕甲第六号証の記載によると、(イ)号発明は、
(1) 結合リンクは(上または下)ケース、押え鈑および上、下の縁に折曲部を有する側鈑とから成り、
(2) 側鈑は、二個から成り、上方折曲部の内側部に山形状の上部撥条鈑を当て、その側鈑の長孔に押え鈑を挿通してその側鈑の上方部と上部撥条鈑を押え、その押え鈑に嵌合した箱状の上ケースの前後両側縁部の切欠に側鈑前後両側縁部の枠部が出入するようにし、上ケースの両側縁部の数個の突子により押え鈑に上ケースを取り付け、そのケースを多数並列して、多数の連結片の南側の折曲部を各隣合せた側鈑の長孔に挿通引掛けて連結し、また、側鈑の下部に山形状の下部撥条鈑を当て、一方に開放部を設けた二個の下ケースをそれぞれ各連結片の前後に嵌合して、その両側縁の折曲部をこれに掛け、かつ、下部撥条鈑を押えていることが認められる。
以上の事実によると、本件特許発明におけるU字形結合彎曲片14と(イ)号発明における側鈑3とは、形状において著しく異なり、しかも、本件特許発明においては、U字形給合彎曲片を各二個ずつ用いて、それぞれの脚を上下各リンク鞘の各開放端に挿入することにより、バンド縦縁中に結合リンクを形成しているに対し、(イ)号発明においては、側鈑3、3'は押え鈑6を挿通引掛けて結合し、かつ、側鈑3、3'の枠部10、10'、11、11'が出入するようにした切欠8、8'、9、9'を有する箱状の上ケース7と、一方に開放部17、17'を設け、かつ、連結片15の前後に両側縁の折曲部19、19'、20、20'を掛けた下ケース18の側部において係合しているものであり、係合の部位および手段において、著しい差異がみられる(したがつて、また、その作用効果においても異なるものがあることは、前記甲第六号証の記載から十分推認しうるところである。)
したがつて、本件特許発明のU字形彎曲片14と(イ)号発明の側鈑3とは、その構造、したがつて、これに伴う作用効果において相違するものというべく、これをもつて、発明として、構造的に極めて酷似し、作用機能において等価であるとか、単なる設計上の微差にすぎないと断ずることはできないから、この点に関する原告の主張は採用することはできない。
(むすび)
三以上説述したとおりであるから、その違法があることを理由として本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、結局、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとし、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八十九条、第百五十八条第二項の規定を適用して、主文のとおり、判決する。
(三宅正雄 石沢健 奈良次郎)